
製造現場における作業環境改善と生産性の両立が求められるなか、油煙(オイルミスト)の課題が深刻化しています。
工作機械から発生する油煙(オイルミスト)は、作業員の健康被害リスクを高めるだけでなく、設備の故障や製品品質の低下にも直結する課題のひとつ。
しかし、適切な対策を講じることで、作業環境の改善と生産性向上の両立は可能です。
本記事では、工場における油煙(オイルミスト)対策の具体的な方法から、ミストコレクターの効果的な設置位置、さらには法令で定められた濃度基準まで、現場で即実践できる情報を詳しく解説していきます。
■油煙(オイルミスト)の基礎知識
オイルミストとは、機械加工中に発生する微細な油の粒子のことです。効果的な対策の第一歩として、まずはオイルミストの特性や影響について正しく理解しましょう。
オイルミストとは?
オイルミストとは、工場内で使用される油が微細な粒子状になり、空気中に拡散したものを指します。
▼油煙(オイルミスト)が発生する主な要因
- 工作機械の切削加工時に発生する熱による油の気化
- 高速回転する機械部品による油の飛散
- 圧縮空気による油の霧化
このミストは、粒子の大きさが0.1~10μm(マイクロメートル)と非常に小さく、人間の目では確認が困難なケースが多いのが特徴です。
オイルミストによる工場環境へ影響
オイルミストは工場設備に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
まず、浮遊するオイルミストは機械設備の表面に付着し、次のような問題を引き起こします。
- 電気系統の故障や短絡
- 精密機器の動作不良
- 床面の汚れによる転倒事故リスク
- 製品品質への悪影響
特に精密加工を行う工場にとって油煙(オイルミスト)は、製品の汚染は不良品の発生にもつながる厄介な存在です。
また、空調設備のフィルターの目詰まりによって、空調効率の低下やエネルギーコストの上昇にもつながるケースもあります。
オイルミストによる人体への影響
工場内のオイルミストは、作業者の健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。
- 呼吸器系への影響
- 気道への刺激
- 喘息様症状
- 慢性気管支炎
- 皮膚への影響
- 皮膚炎
- かぶれ
- アレルギー反応
- 目への影響
- 目の炎症
- 視界不良による事故リスク
油煙(オイルミスト)への長期的な曝露は、労働者の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
そのため厚生労働省は、化学物質による健康障害を防止するため、労働安全衛生規則第577条の2第2項にて、労働者が曝露される化学物質の濃度基準値を定めています。
■効果的な油煙(オイルミスト)対策
環境や健康への影響が心配されるオイルミストの対策には、どのような方法があるのでしょうか。ここでは、効果が期待できる対策方法を5つご紹介します。

オイルミストコレクターの導入
オイルミストコレクターは、工場内の空気中に漂うオイルミストを効率的に除去する装置です。
設置することで、空気の質を大幅に改善し、作業環境を快適に保つことができます。
さらに、設備への付着を防ぐことで、メンテナンス頻度の削減や機械の寿命延長にもつながります。
換気システムの強化
オイルミストを屋外に排気する際は、臭気クレーム等に発展しないよう、近隣環境の確認が必要です。
そのうえで、オイルミストを外部へ排出するための基本的な対策として必要なのが換気システムの強化。
適切に設計された換気システムを導入することで、工場内の空気の流れを最適化できます。
オイルミストの濃度を下げることで、近隣環境への配慮とともに安全で健康的な作業環境を維持することができるのです。
適切なオイルの選定
使用するオイルを適切に選定することも重要なポイントです。低揮発性で安全性の高いオイルを選ぶことで、オイルミストの発生を最小限に抑えることができます。さらに、環境への負荷が少ない製品を選ぶことで、工場全体の持続可能性を向上させることができるでしょう。
個人保護具(PPE)の使用
個人保護具(PPE)を使用することで、従業員の健康を守る対策が可能です。
▼必要なPPE一覧
- 防ミスト用マスク(N95規格以上推奨)
- 耐油性手袋
- 保護メガネ
- 作業着(撥油加工されたもの)
各作業工程に応じた適切なPPEの選定と定期的な交換によって、作業中の安全性が向上し、健康リスクを軽減することができます。
従業員教育の実施
効果的な対策には、従業員の理解と協力が不可欠です。
▼教育プログラムに含めるべき要素
- オイルミストの危険性に関する基礎知識
- 正しいPPEの着用方法
- 異常時の対応手順
- 日常点検の実施方法
正しい装置の使い方や清掃手順を学ぶことで、油煙(オイルミスト)の発生源を減少させることができます。
また、健康リスクに対する理解を深めることで、従業員自身が安全意識を持つようになるでしょう。
■オイルミストコレクターを導入するメリット
油煙(オイルミスト)対策のなかでも、もっとも効果が期待できるのが「オイルミストコレクター」の導入です。 そこでここでは、オイルミストコレクターを取り入れるメリットについて、詳しくご紹介します。

作業環境の改善
オイルミストコレクターの導入により、工場内の空気環境が劇的に改善されます。
導入前と比較して、以下のような具体的な改善効果が期待できます。
- 空気の透明度向上による視認性の改善
- 床面の油膜付着減少による転倒リスクの低減
- 不快な油臭の低減
- 温湿度管理の効率化
清潔で快適な作業環境が実現し、従業員へのオイルミスト暴露が抑制されストレス軽減にもつながります。
エアコン等の設備機器の汚れが減少し、故障の要因を減らすことができるのは、大きなメリットと言えるでしょう。
健康リスク低減
オイルミストコレクターは作業者の健康を守る重要な投資となります。
導入による健康リスク低減効果
- 呼吸器系疾患リスクの大幅な低下
- 皮膚トラブルの発生率減少
- 目の炎症症状の予防
- アレルギー反応の抑制
また、健康リスクが低下することで、従業員の離職率も下がる可能性も期待できます。
労働安全基準の遵守
最新の労働安全衛生法に完全準拠した作業環境を実現できます。
法令で定められた基準を満たすことで、企業全体のコンプライアンスの意識も向上し、顧客や社会からの信頼性が高まるでしょう。
生産性の向上
オイルミストコレクターの導入は、作業効率の向上に直結します。
▼具体的な生産性向上効果
- 視界良好による作業ミスの減少
- 機械メンテナンス時間の短縮
- 清掃作業の削減
- 不良品率の低下
オイルミストによる視界不良や健康被害が減少することで、ミスや作業の遅れが少なくなります。結果として、全体的な生産性の向上が期待できるのです。
機械の寿命延長
設備投資の観点からも、オイルミストコレクターは大きな効果を発揮します。
▼機械寿命への具体的な効果
- 電気系統の故障頻度低下
- 潤滑系統の長寿命化
- 精密部品の劣化抑制
- メンテナンスコストの削減
これにより、設備の寿命が延び、メンテナンスコストの削減にもつながります。
さらに、安定した稼働状況を維持できるため、計画的な生産が可能になります。
環境への配慮
オイルミストコレクターは、環境負荷低減にも貢献します。
▼主な環境改善効果
- 廃油量の削減
- CO2排出量の低減
- 空調負荷の軽減
- 油剤使用量の最適化
オイルミストコレクターの導入は、SDGs達成目標に向けた取り組みとしても、多くの企業が注目しています。
■オイルミストコレクター導入の注意点
事前に知っておくべき、オイルミストコレクターを取り入れるときの注意点について解説します。
使用環境に適したタイプを選ぶ
オイルミストコレクターには「フィルター式」「フィルターレス式」「電気集塵式」があります。
フィルター式
フィルター式オイルミストコレクターは、ミストを物理的にフィルターで捕集する仕組みです。
この方式は、初期費用が比較的安価で、メンテナンスが簡単という利点があります。
ただし、フィルターが詰まると性能が低下するため、定期的な交換が必要です。
特に、高濃度のオイルミストが発生する環境では、頻繁なメンテナンスが必要となる場合があります。
フィルターの材質や仕様により、捕集効率や対応可能なオイルの種類が異なるため、選定時には注意が必要です。
フィルターレス式
フィルターレス式は、フィルターを使用せず、遠心分離や衝突分離の技術を用いてオイルミストを捕集します。
この方式は、交換するフィルターが不要なため、ランニングコストを抑えることができるのが大きな特徴です。
ただし、発生しているオイルミストの粒子径によっては、細かい粒子が除去できず、結果アフターフィルタを設置しなければならないケースがあり、フィルター式と同じ仕様になってしまうことがあります。現状のオイルミスト粒子径等の確認が必要です。
電気集塵式
電気集塵式は、オイルミストを帯電させ、電極に付着させる方式です。
この技術は、微粒子レベルのミストまで高効率に捕集できる点が優れています。
また、ランニングコストが低く、長期間にわたって安定した性能を発揮。
一方で、装置の導入コストが高いケースがあり、イニシャル、ランニングコスト両面から判断することが重要です。
またフィルターの定期洗浄が求められるため、維持管理に関する計画も確認しましょう。
メンテナンスのしやすさ
導入後のメンテナンスのしやすさも重要なポイントです。
- フィルター交換の容易さ
- 点検口へのアクセス性
- 清掃作業のしやすさ
- 部品交換の簡便性
フィルターの交換や装置の清掃が簡単であるかどうかを確認することで、運用コストを抑えながら効率を維持することができますが、昨今、機械工場ではオートメーション化が進み、工作機器台数に対して、少ない従業員で管理運用するケースが増えています。
メンテナンスが従業員でできる物量・内容かどうか確認し、台数によっては外部委託することも検討する必要があります。
ランニングコストの把握
オイルミストコレクターを導入する際には、初期費用だけでなく、ランニングコストも考慮する必要があります。
- 電気代(月間運転時間×消費電力)
- フィルター交換費用
- メンテナンス費用
- 廃油処理費用
電気代やフィルター交換費用など、継続的にかかる費用を見積もり、予算計画を立てることが重要です。
これにより、長期的な運用が可能になります。
回収したオイルの処理方法
コレクターで回収したオイルの処理方法についても事前に確認しておきましょう。
- 専門業者への委託処理
- 社内での再利用
- 分別による有価物化
- リサイクル
適切な廃棄手続きが整っていない場合、環境への影響や法令違反のリスクが発生します。
コストの低減や環境へ配慮した事業を目指したい場合は、集めたオイルをリサイクル・再利用できるタイプのオイルミストコレクターを選ぶのがおすすめです。
信頼できるメーカー・業者を選ぶ
導入にあたっては、信頼できるメーカーや業者を選ぶことが不可欠です。
製品の品質やサポート体制、実績を十分に確認した上で選定することで、安心して使用することができます。
導入後のアフターサポートが充実している企業を選ぶと、長期的な安心感を得られるでしょう。
■まとめ
油煙(オイルミスト)対策は、工場環境の改善だけでなく、生産性や安全性の向上にも繋がる重要な取り組みです。
おすすめなのが、オイルミストコレクターの導入。適切な選定とメンテナンスによって、多くのメリットがもたらされます。
まずは工場内の現状を正確に把握し、最適な対策を講じることから油煙(オイルミスト)対策を始めましょう。
これにより、快適で効率的な生産環境を実現できます。